こんな時代だ。

誰かに執着するなんてこと、ないと思ってた。



「おめぇ、俺のこと好きなんだろ?」

「は?何くだらないこと言ってんの?あんた、ついに頭湧いた?」

息が上がる。

周りは敵だらけ。

背中合わせの俺と、おまえ。

危機的状況なのに、悪い気はしない。

むしろ、楽しくて仕方なくてこんなことも言ってしまえる。

いつもどおり、俺をあしらう様に返事を返してくるこいつも、同じこと思ってるんじゃないか。

敵が剣を振り下ろす。

それをヌンチャクで巻き取って軌道を外すようにしてかわし、敵の後ろに回りこむようにして蹴りを繰り出す。

俺にはできない、舞いでも踊っているかのような動き。

「へっ!後でちゃんと聞かせてもらうからな!凌統!!」

「今でも聞かせられるけど?あんたなんか、好きじゃないっつの!」

俺も負けられず、大ぶりの剣を振り下ろす。


後に残ったのは、たくさんの死体と、血の海。

顔にへばりつく返り血を拭った。

「なんとか、終わったな」

「へぇ、あんたでも疲れることがあるんだね?」

「涼しい顔しやがって…おめぇも息上がってるぜ?」

「お互い様、ってね」

そう言うと、珍しく俺の横に腰を下ろす。

「さっきのことだけど…」

「あぁ?俺のこと言うくせに、あんたもそーとー!しつこいね…」

「『嫌い』って言わなかったからな。俺のこと、嫌いじゃないってことだろ?」

「な?」って笑うと、恥ずかしそうに顔を反らした。

「…でも…好きじゃ、ない…」

ぼそっと言う声が、なんだか愛しく聞こえる。



気づくと、俺を憎んでたハズのあいつが傍にいた。

戦場で背中を預けられるようになった。

俺のこと、嫌いではなくなった。

それで十分過ぎるハズなのに、その向こうを求めてしまう。

それでも、強がりなお前は、なかなか俺の欲しい言葉をくれない。


誰かにここまで執着するなんて、思ってもみなかった。


強がりなお前と、我が侭な俺。

満足できる距離まで近づけるには、まだまだ時間がかかりそうだ。



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結構前に載せた『2つのお題』の続きです。

どうしても甘寧がおバカな子にならない…。



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